偶然は、つくるもの。

IM・起業家  遠矢 弘毅

人生は、予定どおりにいかないから
面白い。

取材・構成/イワブチシンジ

IM・起業家  遠矢 弘毅

編集前記

人生は、予定どおりにいかないから面白い。
振り返ってみると、思いもしなかった人や出来事がつながり、いつの間にか一本の道になっていることがある。
鹿児島県阿久根市から大学進学を期に北九州市へ。(北九州市立大)
大学では落語研究会に入り、バーで人と話すことを覚え、卒業後は営業職、税理士事務所を経験。そして三十八歳で起業家を支援する仕事に出会い、四十二歳で「cafe causa」を立ち上げた。現在は、まちづくりや社会起業家支援、大学での教育など、その活動はさらに広がっている。今回の取材で何度も出てきた言葉が「偶然」だった。ただ、遠矢さんにとって偶然は、ただ待っ話をし、まず動いてみる。その積み重ねが、次の偶然を呼び込んでいる。

第一章 

鹿児島県阿久根市から         北九州市へ。

薩摩半島の北西部にある海辺の街で育った。 北九大進学を機に北九州市へ、その後の就職先も偶然、北九州市。そして結婚、子どもも生まれ、気づけば、北九州市で暮らし続けて「ずっとここにいる感じですね」そう笑う。大学に入り、落語研究会へ。理由は少し意外、「人と話すのがあまり得意じゃなかったから、落語をやったらしゃべれるようになるかなと思って」更に、小倉の老舗のバーでアルバイト、カウンターに座る人たちと話すには、酒の知識だけでは足りない。音楽の話、本の話、社会の話。人の話を聞く。時代はバブル全盛期。

鹿児島県阿久根市から         北九州市へ。

第二章

変化を見る癖。

大学卒業後、遠矢さんは株式会社九州リクルート企画(現 株リクルート)の北九州支店へ就職、、当時、求人広告の営業として企業を訪ね歩いた。営業の世界は、結果が数字で返ってくる。締め切りに追われる忙しい日々の中で、当時、世の中の変化を見る癖がついた。「新聞広告を見る。街の看板を見る。テレビコマーシャルを見る。」「どんな企業が動いているのか。どの業界に変化が起きているのか。」求人広告は、企業や時代の変化が一早く現れる世界であった。 

変化を見る癖。

第三章 

転 記。

大きな転機が訪れたのは、三十八歳。 大手リクルート系企業を退職後、その後多くの仕事を経験、そして転記となる財団法人北九州産業学術推進機構で、インキュベーションマネージャーとして働くことになった。仕事は、企業やベンチャー組織等、新しい事業を始めようとする人たちを支援すること。そこで、初めて 「起業する人」を間近で見るようになる。

転 記。

第四章

カフェカウサを開店。

四十二歳で独立を決めた遠矢さん。それ迄の様々な経験の中で、何かを始めるには、先ず、人が集まる場所が必要であるとの考えに至る。「前向きな人が集まることで、新しい価値を次々に創造する。」それが、カフェカウサのコンセプトだった。ただ食事をするだけのカフェではない。人が出会い、会話が生まれ、そこから新しい仕事やアイデアが生まれる。そんな場所をつくりたかった。

カフェカウサを開店。

第五章 

偶 然。

物件探しでも、偶然が遠矢さんを動かした。出会ったのは、一人の若い建築家、空き物件を見つけては、自分で図面を描いていた。その提案を見た遠矢さんは、自分がイメージしたものに近いと感じ、「これは面白い」と思った。ただし、家賃や初期費用の条件が合わず、相談し、条件を掲示「この条件をクリアして頂ければ設計をお願いする」そう交渉し、その建築家は、見事にその条件をクリアし設計を依頼。     こうして店づくりが始まった。物件や建築家も、働く人も、最初から用意されていたわけではない。

偶 然。

第六章

黒田征太郎さんとの出逢い。

「カウサ」を語るうえで欠かせないのが、画家・黒田征太郎さんとの出会いだ。 学生時代に働いていた小倉の老舗のカフェバーコットンダンサーでの同僚との再会をキッカケに、黒田さんが通うバーへ何度も足を運んだ。そして、黒田さんと出会い、酒を飲み、写真家の木寺さんらとも交流が始まった。カウサをつくる時、黒田さんに絵を描いてほしいと思っていた。けれど、親しくなったからこそ、仕事として頼むことをためらった。そんなある日、黒田さんから「この絵、カウサに置いていい?」と声がかかった。

黒田征太郎さんとの出逢い。

第七章

偶然を、理論として知った。

遠矢さんは自分の人生を、「偶然ばっかりなんですよ」と振り返る。しかし、話を聞けば、それは単なる幸運ではない。気になる人には会いに行く。誘われれば行ってみる。知らない場所にも足を運ぶ。つまり、偶然が起きる環境を自らつくっている。後に知った「計画された偶発性」や「エフェクチュエーション」という考え方は、まさに自分が実践してきたことだった。自分は何者か。何を持っているか。誰を知っているか。そこから始め、出会いによって未来を変えていく。

偶然を、理論として知った。

第八章

これからも、         偶然が起きる場所へ。

現在、遠矢さんの活動は、まちづくり、社会起業家支援、大学での教育、インキュベーションなど、多方面へ広がっている。一見すると、さまざまな仕事をしているように見える。けれど、根っこはひとつ。人と人をつなぐ。 まだ形になっていない可能性を見つける。そして、そこから新しいことを始める。遠矢さんの人生には、最初から完成した設計図があったわけではない。出会った人や出来事を、その都度つないできた。だから未来もきっと同じだ。

これからも、         偶然が起きる場所へ。

編集後記

偶然は、動いた先にある。
遠矢さんの話を聞いて、強く残ったのは「偶然」よりも「動く」ということだった。人と会う。 話をする。気になったら、まず行ってみる。その小さな行動の積み重ねが、思いもしなかった出会いや出来事を引き寄せ、やがて一本の道になっていく。人生は、最初から答えを決めるものではない。動いた先で出会い、そこでまた次の一歩を決めていく。偶然は、待つものではない。自分から動いた先にある。遠矢さんの歩みは、そのことを静かに教えてくれた。