門司港、レトロの、その先へ。 

北九州市門司港

港町には、どこか旅情がある。
海へ向かう道。
船の汽笛。
潮の香り。
そして路地の奥にある、人の営み。
門司港は、建物を見る街ではない。

<記事一部抜粋>

SAKU編集部 : Photo by Alexandre R.E

北九州市門司港

編集前記

門司港は、明治二十二年(1889年)の開港以来、日本の近代化を支えた国際貿易港として発展してきた港町、大陸への玄関口として、石炭や生糸をはじめとする物資が集まり、商人や船員、外国人たちが行き交うことで、街には早くから異国の文化や新しい価値観が根づいてきた。現在も、当時の洋館や駅舎、税関などの歴史的建造物が残り、港町として栄えた面影を今に伝えている。当時の時代の記憶と、そこで営まれてきた人々の暮らしが静かに息づいている、そんな街を取材ランニング。

一、

港町の開放感。

走り出したはずが、もう立ち止まっている 夕方の空気は少しひんやりしていて、走るにはちょうどいい。 海の気配が近く、港町らしい開放感もある。最初の数分は、ちゃんとランニングをしていた。 呼吸も一定、足取りも軽い。予定どおり、順調そのものだった。……はずだった。 門司港という街は、ランナーにとってかなり危険だ。 気になる建物がある。古い看板がある。 細い路地がある。 そして、なぜか「ちょっとだけ見ていこう」と思わせる空気がある。

港町の開放感。

二、

本当の門司港。

門司港レトロから栄町商店街へ向かうと、街の表情はがらりと変わる。 観光客の視線が集まるエリアを少し外れただけで、そこには昔から続く店と、 新しく始まった店が自然に並んでいた。昭和の空気をそのまま残したような 店先もあれば、令和らしい感性で小さく始めた店もある。 どちらも無理に主張しすぎず、同じ通りの中で静かに共存している。 「古い」と「新しい」が、ちゃんと同じ街で暮らしている。 それが門司港の面白さだと思う。

本当の門司港。

三、

路地裏へ。

路地裏には、観光ガイドに 載らない景色がある一本路地へ入る。 そこには、観光ガイドには載らない景色がある。錆びたトタン。 味がありすぎる木造住宅。少し傾いた塀。 植木鉢の並ぶ玄関先。そして、こちらをじっと見ている猫。いや、正確には「また来たの?」という顔で見られている。 路地裏には、派手な見どころはない。けれど、だからこそ記憶に残る。誰かが毎朝掃く玄関先。干された洗濯物。 風に揺れる暖簾。季節ごとに咲く花。古い壁に貼られた、少し色あせた注意書き。 そんな何気ない風景が、この街の空気をつくっている。

路地裏へ。

四、

それは路地に隠れている。

写真を撮る。立ち止まる。又撮る。 気になる路地を見つける。さらに止まる。 結局、運動量よりカメラを構えている時間のほうが長い、速く走ることが目的ではない。 少し遠回りして、、少し発見すること。予定どおりに進まなくても、その寄り道の中にこそ、 この街の魅力がある。 観光地の門司港はもちろん美しい。 けれど、本当の面白さは、一歩裏へ入った路地に隠れている。整った景色のすぐ隣に、 暮らしの痕跡がある。

それは路地に隠れている。

五、

レトロの横に。

門司港レトロといえば、歴史的な建物に海、そして焼きカレー。 だいたいこの三点セットで語られがちだ。 ところが最近、その「レトロ」のすぐ横に、新しい飲食店が少しずつ増えている。 古い街並みを眺めながら、ちょっと新しい店で食事をする。 これが、なかなか面白い。 昔の門司港をそのまま保存するだけではなく、今の時代の店や人が入り込んでくることで、街に新しいリズムが生まれている。

レトロの横に。

六、

門司港といえば、門司港ホテルだった。

少し前まで、門司港で泊まるホテルといえば、まず名前が挙がったのが「門司港ホテル」。 門司港レトロの風景の中に建つ、その独特の存在感は、まさに街のランドマークのひとつだった。 海峡を望む立地と、レトロな街並みに溶け込む建築。その姿を眺めながら門司港を歩くと、「ここに泊まってみたい」と思わせる、どこか特別な雰囲気があった。観光で訪れる人にとっても、門司港ホテルそのものが門司港の風景の一部だったのだと思う。 門司港の街にも、新しいホテルや飲食店が生まれ、訪れる人の過ごし方も変わり始めている。

門司港といえば、門司港ホテルだった。

七、

新しいホテル。

今年七月、門司港レトロに「BEB5門司港 by 星野リゾート」が開業。 「門司港といえば門司港ホテル」という風景に、もうひとつ新しい選択肢が加わった。 これは単にホテルが一軒増えた、という話ではない。 ホテルが増えるということは、街に「泊まる人」が増えるということ。 泊まれば、夕食を食べる。 街を歩く。 商店街にも行く。 翌朝、もう一度海峡を見る。 つまり、観光地だった門司港に、少しずつ「滞在する街」という時間が生まれてくる。

新しいホテル。

八、

走って見つけた、もうひとつの門司港。

門司港駅からレトロ地区を抜け、商店街へ。そして、少し道を外れて路地裏へ。 古い商店、年季の入った建物、何気ない路地。観光地の華やかさとは違う、地元の暮らしが残っている。 一方で、街には新しい変化もある。 新しいホテルや飲食店が増える一方、一本路地に入れば昔の門司港が残っている。 古い門司港と、新しい門司港。 今回その間を走りながら、街の「今」を見つけた。

走って見つけた、もうひとつの門司港。

編集後記

ランニングを始める前は、「今日はしっかり走ろう」と思っていました。
ところが門司港という街は、そんな決意を簡単に裏切ってくれます。気になる路地、古い建物、味のある看板、
そして猫。立ち止まる理由には事欠きません。
結果、ランニングウォッチの記録は少々物足りなくても、カメラの中には予定以上の景色が残っていました。
観光地は目的地があります。でも路地裏には、目的ではなく「発見」があります。
SAKUはこれからも、ガイドブックには載らない景色や、人の営み、少し笑える出来事を探しながら走り続けます。
次回の路地裏探訪も、どうぞ寄り道するつもりでお付き合いください。